ステートメントムービー by TYO

2026.05.29

投資家の心をつかむコミュニケーションの「本質」とは──IR映像の新潮流

IRの世界にもAIが入り込む一方、数字だけでは通用しない、次世代のIRコミュニケーションが求められています。大和総研・SMBC日興証券で25年超にわたりアナリストとして活動した日興アイ・アール ソリューション&リサーチ室長・三浦和晴氏をゲストに迎え、「数字で理解、映像で共感──投資家を動かすIRコミュニケーションの新常識」と題し実施した、TYO×株式会社ブランドジャーナリズム 第二弾セミナー(2026年3月12日開催)のエッセンスをお届けします。

セミナーアーカイブ動画を視聴する ※申込フォーム入力後、メールにてURLを送付します
TYO「ステートメントムービー」資料をダウンロードする

第一部 アナリストが見ている「数字の向こう側」

大和総研・SMBC日興証券で25年以上にわたりアナリスト業務に携わった三浦氏は、素材産業・製造業・アパレル・家電・精密と幅広いセクターを担当し、2005年には日経アナリストランキング家電部門で1位を獲得しました。現在は株式調査部長・経営企画部副部長(中計グループリーダー)を経て日興アイ・アールに移り、IRコンサルティング領域で活動しています。

アナリストの仕事は、担当企業の業績予想、成長ストーリーの構築・レポート執筆、投資評価(買い・売り判断)の3つが軸。評価先は機関投資家であり、報酬の源泉は機関投資家が証券会社に支払うコミッションだと言います。「四半期に一回、決算発表を見るたびに入試の合格発表を見るようにドキドキしていた」と三浦氏は振り返ります。

ロジックと直感──業績予想の二つの軸

三浦氏によると、業績予想においてアナリストが使うのは、「ロジック」と「直感」の二軸。ロジックの側面は、市場成長率・シェアの変化・価格動向・コスト構造の分析から積み上げる定量的なアプローチ。直感の側面は、過去の類似局面との照合と、決算説明会での経営者の非言語情報から生まれます。

三浦和晴氏(日興アイ・アール ソリューション&リサーチ室長)
決算説明会が終わった後、時間を置いて業績予想の数値を入れていく。でも実はその前に、説明を聞きながら「あ、ここちょっと難しそうだな」「今回はうれしそうだな」という感覚がすでに自分の中にある。業績が悪くても改善に自信を持っているときは、社長の顔が意外と穏やかだったりする。そういう表情や、鋭い質問への答え方──そこから読み取れるものが、直感の正体だと思っています。

大義と品格、覚悟と信念──アナリストが企業に求める本質

三浦氏はセミナー直前の2026年3月1日付の日経新聞に掲載されたレゾナック・ホールディングス・髙橋秀仁社長のインタビューを引きながら、アナリストが企業を評価するときに見ていた本質を言語化しました。

「経営者の使命は大義と品格を大切にしながら、覚悟と信念を持って企業価値を向上させること」──この言葉が、自身がアナリスト時代に見ていたものと完全に重なると言います。

「良いIR」の条件も同じ軸で整理できます。中期経営計画や決算発表において、数値目標だけが示されて具体的な達成施策が示されない企業は、アナリストからすると「信じられない数字」にしか映りません。数値と施策がセットで提示され、さらに経営者の覚悟が伝わってきたとき、3点がそろって初めて、投資判断を変える気になると三浦氏は語りました。

ヤマハ、富士フイルム、ソニー──「この会社は違う」と感じた瞬間

かつて「10年間持ち続けて一番儲かる銘柄はどれか」と機関投資家から問われたとき、三浦氏が真っ先に挙げたのがヤマハと富士フイルム、ソニーでした。

ヤマハは、円高局面が続く中でも生産拠点を海外に移して品質を落とすことをせず、ブランドの根幹を守り抜きました。その結果、円安に転じたとき、ブランド力がそのまま利益に直結しました。富士フイルムは、写真フィルム事業が縮小する中でもコーティング技術・有機材料技術を起点に液晶材料や医薬・バイオ事業へと展開を広げ、強みの根幹を一度も手放しませんでした。

ソニーについては後輩アナリストの見立てとして紹介。ゲーム事業でサブスクリプション収益が本格的に立ち上がった瞬間を捉え、「ソニーはAVメーカーから別の会社に変わる」と高い評価をつけたと言います。

三浦和晴氏(日興アイ・アール ソリューション&リサーチ室長)
3社に共通するのは、自分たちのベースとなる強みを理解していて、そこを捨てなかったということです。あるいは、会社が変わる瞬間をきちんと捉えたということ。アナリストはそういう「違い」を感じた瞬間に、投資判断を変えるんです。

非財務情報が重要な理由──「お役立ちの結果が利益」

三浦氏はパナソニック創業者・松下幸之助の「企業の存在意義は社会に役立つこと、その結果としてのお役立ちが利益になる」という言葉を引き、非財務情報が持つ意味を語りました。安価な家電で主婦の家事労働を解放しようとしたパナソニック、大気汚染問題に向き合って生まれたホンダのCVCCエンジン、CO₂削減を目指して開発されたトヨタのプリウス……すべて「社会課題の解決」が先にあり、結果として長期的な利益につながっています。「その企業がなぜこの事業を手がけるのか」。そのビジョンと大義こそが非財務情報の核心であり、財務的な数値だけでは届かない部分だと三浦氏は強調しました。

「投資家が本当に見たいのは、経営者の思いと覚悟が伝わる映像だ」とも三浦氏は語りました。製造現場は言葉でどれだけ説明されても分かりにくいものですが、映像を見れば一瞬で分かります。原稿の棒読みではなく、自分の言葉で語る経営者の姿。そういう「温度感」こそが、IRに映像を活かす本質的な価値だと述べました。

第二部 映像で共感を生む──ステートメントムービーの戦略的IR活用

TYO事業開発本部の小川祐紀は、企業が活用する映像コンテンツを3つに分類しました。①「ブランドムービー」は1分未満の短尺で世界観や初期好感に特化、②「企業VP」は5分程度でファクトを論理的に説明。そして③「ステートメントムービー」は1分半から4分程度で、企業の現状や社会課題を踏まえた「未来への意思表明」を映像化するものと定義しています。

小川祐紀(TYO 事業開発本部 BizDev Chief Executive Business Producer)
ステートメントムービーは、「エモーショナル」と「ロジカル」が共存しています。未来のビジョンを抽象的に語るだけでなく、具体的なコミットメントやアクションにまで踏み込む。それが受け手にとっての「本気度」として伝わる。共感を軸に理解を加速させ、最終的な納得・共鳴へと橋渡しする役割を担うのが、ステートメントムービーです。

左脳と右脳──意思形成プロセスから見た映像の役割

小川が提示したのは、人の意思形成プロセスを左脳と右脳で整理したフレームワークです。左脳的な「認知→理解→納得→比較検討→意欲醸成→アクション」の流れと、右脳的な「初期好感→共感→共鳴」という感情的な段階が並行して走ります。企業VPは左脳側の理解促進に、ブランドムービーは右脳側の初期好感に特化しているのに対し、ステートメントムービーは両プロセスに同時にアプローチできる点が最大の強みです。

IRコミュニケーションにおいては、ステートメントムービーが「共感の起点」となり、説明資料・対面コミュニケーション・統合報告書などと組み合わせることで、投資家の理解と共感が段階的に深まっていきます。最終的な投資判断はリアルな双方向コミュニケーションによって生まれるものであり、ステートメントムービーはそこへの「橋渡し役」として機能すると小川は言います。

制作から活用まで──MVV再整理とロードマップ

ステートメントムービーは「作って終わり」ではありません。制作のロードマップは、①ステークホルダーコミュニケーション戦略の設計、②ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の再整理・再定義、③ステートメントの開発(コピーライティング)、④映像制作と活用設計という4ステップで構成されます。近年TYOでは、若手・ミドル層・経営層を集めたワークショップを通じて現場の思いと経営の意志をブリッジしながらMVVを磨いていくプロセスの支援も増えています。

小川祐紀(TYO 事業開発本部 BizDev Chief Executive Business Producer)
本当に良いステートメントムービーを作るには、企業の根幹にあるMVVへの深い理解が必要です。私が特に重視しているのが「ビジョン」。従業員なり株主なり採用候補者なりを突き動かすのは、未来に向けたビジョンをどれだけ具体的かつ力強く示せるか。そこが他社との差別化にも直結します。

パネルディスカッション 数字と物語の最適バランスとは

パネルディスカッションのモデレーターを務めた林亜季氏(株式会社ブランドジャーナリズム代表取締役CEO)が最初に提示したテーマは、「投資家は数字と物語をどう統合して判断しているのか」でした。

三浦和晴氏(日興アイ・アール ソリューション&リサーチ室長)
株式市場は未来を買うんです。過去を買うんじゃない。アナリストが過去の数字を分析するのも、あくまで未来を予想するための素材としてです。だから未来軸での語りが、IRにとって最も重要な要素だと思います。

この「未来軸」こそがステートメントムービーの本質でもある、と小川はつなぎます。現状のIR映像は決算説明会の動画や事業紹介が主流で、いずれも「現在」を語るもの。ステートメントムービーは過去と現在を踏まえた上で、具体的なコミットメントとともに「これからどこへ向かうか」を示します。受け手が「本気だ」と感じる映像は、そうした未来への決意から生まれるという話で盛り上がりました。

開示増加時代の逆説──情報が多いのに「伝わらない」

東証が企業に非財務情報の開示強化を求める流れの中、「情報量は増えているのに、投資家側からは知りたい情報がないと言われる」というミスマッチを林氏が取り上げました。三浦氏の答えは明確でした。

三浦和晴氏(日興アイ・アール ソリューション&リサーチ室長)
整理されていない情報は、単なるデータでしかないんです。義務だから出している数値が積み上がっているだけで、何を伝えたいのかが分からない。投資家側も、数字がありすぎて整理できない。だから欲しい情報がないと感じてしまう。送る側が「何を伝えるか」を選択・整理して、ストーリーとして届ける作業──それを企業が意識的にやらないといけない。

AIがIR資料の作成・読み取りの両方に活用される時代における、人間によるコミュニケーションの役割についても議論が及びました。三浦氏は、AIが読み取りやすい定型情報に最適化すると個性や思いが失われると指摘。小川は、左脳的な情報整理をAIに委ねつつ、五感に訴える表現こそ人間の役割だと述べました。映像は言語の壁も越えます。「日本の有名小説家の本を読んでいる外国人より、日本のアニメを見ている外国人の方が圧倒的に多い」という三浦氏の言葉は、海外投資家コミュニケーションにおける映像の可能性をも示唆していました。

林亜季氏(株式会社ブランドジャーナリズム 代表取締役CEO)
企業の中だけの言語で「これを言えば伝わる」と思っていることが、実は全然伝わっていないケースは多い。第三者の目を入れながら「本当に伝わっているか」を検証していく作業が欠かせない。そこにジャーナリズムの視点が生きると思っています。

三者は、これからのIRコミュニケーションの未来を描くという「同じ山に違う方向から登っていこう」という認識で場を締めました。

セミナーアーカイブ動画を視聴する ※申込フォーム入力後、メールにてURLを送付します
TYO「ステートメントムービー」資料をダウンロードする