採用ブランディングは「見せ方」ではない──法政大学・田中研之輔教授が説く、人的資本経営の本丸としての映像活用

「これからの採用ブランディングは、見せ方でもテクニックでもない。人的資本経営の本丸なんです」
2026年7月23日に開催されたオンラインセミナーで、法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授はそう明言しました。
採用の現場では、発信するコンテンツの量は年々増えています。それでもエントリーは思うように伸びず、内定を出しても辞退が続く。「選ぶ側」から「選ばれる側」へと企業の立場が変わったいま、その手詰まりの正体はどこにあるのでしょうか。
株式会社TYOが株式会社ブランドジャーナリズムと共催したオンラインセミナー「採用ブランディング変革──新卒・転職市場で選ばれる企業へ、『伝わる』人的資本経営の実践」。ゲストに迎えたのは、プロティアン・キャリア論の第一人者であり、法政大学キャリアデザイン学部教授と一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事を務める田中研之輔教授です。
TYO事業開発本部の小川祐紀が採用コミュニケーションにおける映像の役割を提示し、田中教授がキャリア論・人的資本経営の視点からその構造を解き明かしました。モデレーターはブランドジャーナリズム代表取締役CEOの林亜季氏が務めました。
セミナーシリーズ第三弾となる当日の議論を詳報します。

第一部|映像で「共感」を設計する──ステートメントムービーという選択肢
認知と共感のあいだに横たわるギャップ
冒頭、TYOの小川祐紀が提示したのは、企業とステークホルダーのあいだにある「認知と共感のギャップ」でした。
「採用候補者は、どんな未来を目指している会社なのか、ビジョンや価値観から自分との相性を判断したいと考えています。ところが企業側は、それに対する的確な伝え方がわかっていない。あるいは、伝えているつもりで伝わっていない。多くの企業に共通して起きていることだと思います」(小川)
TYOは、広告映像を中心としたコミュニケーションコンテンツの戦略立案から企画・制作までを手がけるプロデュースカンパニーです。今回のテーマとして置かれたのは、売上や利益に直結するマーケティング領域ではなく、持続的な企業経営・成長において重要となる人的資本や財務資本の獲得・強化を目的とした領域──すなわち、従業員・採用候補者・株主・投資家といった身近なステークホルダーとのコミュニケーションでした。
認知から共鳴まで、映像はどの接点で機能するのか
採用における意思形成は、段階を追って深度を増していきます。企業を知る「認知」のフェーズは、多くの場合スマートフォン上のデジタル接点から始まります。しかし、企業を知った瞬間に入社を決意する人はいません。
候補者はより深い情報を求め、企業発信の情報だけでなく、自分と同じ立場にある人の口コミや先輩社員の声に触れながら核心に迫っていきます。そしてオンラインだけで完結することはなく、集団での場と個別の対話というリアルな接点を経て、最終的な態度変容・行動変容に至ります。
「映像に関しては、このどのチャネル・タッチポイントにおいても利活用する余地があると考えています」(小川)

「映像」と「動画」はこう違う──目的で選び分ける3つのタイプ
次に小川が示したのが、映像・動画のタイプ整理です。マーケティング目的か、身近なステークホルダーとのコミュニケーションかによって、選択すべきタイプは変わります。
ステートメントムービーは、ステークホルダーコミュニケーションにおける中核に位置づけられる、リッチな映像です。
「一言で定義すると、企業の現状や社会課題を踏まえた未来への意思表明です。尺はこれまでの事例から見ても、1分強から4〜5分程度が適切だと考えています」(小川)
なぜ作るのか(Why)は、未来へのビジョンなど経営メッセージに対する共感・共鳴を手繰り寄せるため。何を描くのか(What)は、未来ビジョンの具体としてのコミットメントやアクション。どう描くのか(How)は、「エモーショナル」と「ロジカル」が共存する形。メッセージ性の強いストーリー構成とコピーライティングが、他の映像以上に重視されます。さらに、候補者に自分ごと化してもらうためには、社会課題や社会事象との接続が鍵になります。
ただし、これ一本ですべてが完結するわけではありません。
「ステートメントムービーがあることによって、それが羅針盤のように機能することで、他の施策とのシナジーがより生みやすくなる。紹介動画も含めた統合的な組み合わせで成り立つものだと考えています」(小川)

左脳と右脳──採用候補者の意思形成プロセス
TYOが緻密な映像設計のベースに置いているのが、意思形成フローのフレームワークです。
ステークホルダー、今回でいえば採用候補者が意思決定に至るまでには、数値やファクトによる理解の促進や納得感(左脳)だけでなく、企業ビジョンへの共感・共鳴(右脳)が不可欠になります。どちらか一方に寄ってはならず、両方を見渡してバランスを取ること。それがステートメントムービー制作の要諦だと小川が紹介しました。

このフレームに各タイプを当てはめると、貢献できる範囲の違いが明確になります。
・ブランドムービー:30秒から1分未満の短尺動画。直感的で、世界観が瞬時にわかる構成。要素を絞り込み、理解促進よりも印象を優先する。ビジュアルインパクトと、頭に残るBGMの選択が鍵。最も貢献するのは認知直後の「初期好感」の領域。
・企業VP(コーポレートムービー・会社紹介動画):3〜5分程度の尺。ロジカルで体系的、ナレーションやインタビュー中心の構成。歴史・規模・市場・体制などを端的にファクトで提示し、「理解」を促す。実写中心でリアリティを重視した映像設計。
・ステートメントムービー:「ロジカル」と「エモーショナル」が共存する映像。共感を軸とした視点と、意味づけされた情報が中心。言語と映像の掛け合わせで感情の揺れをコントロールする工夫が求められる。
事例①|日本リーテック ブランドムービー「つい、見てしまう」篇
セミナーでは、実際にTYOが手がけた映像が3本紹介されました。
1本目は、日本リーテック株式会社のブランドムービー「つい、見てしまう」篇。採用を強く意識して制作され、2026年7月に公開されたばかりの映像です。
「卓越した技術と誠実な施工でインフラを支え、安全・安心な社会と豊かな暮らしを未来につなぐ」というグループパーパスと、インフラを支える社員の誇りを広く伝えることを意図しています。
視聴後、林氏が反応したのはコピーワークでした。
「最後の『安全に、安心しない。』という一節にハッとしました。安全と安心は普通セットで語られますが、そこをあえて切り離している。すごいコピーワークだと思います」(林氏)
「まさにそこが我々もこだわりを持った部分です」と小川。15秒版と30秒版が用意され、今後さらに多くの人に届ける施策が予定されているといいます。
事例②|荏原製作所 企業VP
2本目は、株式会社荏原製作所の企業VPです。工業用ポンプや送風機、冷凍機といった産業を支える機器から、浄水場・下水処理場・灌漑施設などの社会基盤まで、事業の広がりを事実情報の積み上げによって提示しています。
100年にわたる技術の蓄積が世の中をより良くする可能性を生み出している──その視点で、企業の認知向上・ブランド価値の向上と、採用活動における企業理解の促進を意図して制作された一本です。
事例③|いわきFC ステートメントムービー
3本目は、プロサッカークラブ・いわきFCのステートメントムービー。設立10年の節目に、クラブの歩みを「中間報告」として描いた作品です。
東日本大震災から5年後の2016年、復興や地域活性化への寄与を目指して福島県社会人リーグ2部に参入。設立当時は多くて200人だった観客動員が、2024年には1試合平均約4000人を超え、いまでは年間8万人以上が足を運びます。当初5社だったパートナー企業の広がりとともに、「スポーツで社会価値を創造する」という意志が語られていきます。
地元いわき市・福島県内のサッカーファンや地域住民を中心に、地域社会全体をターゲットとした映像です。
「地域の皆さんが見たら、シビックプライドが刺激されて嬉しいと思います」と田中教授。
採用候補者を起点にした、統合コミュニケーション
3本の事例が示すのは、各タイプの映像が貢献できる領域がそれぞれ異なるという事実です。
「どれか1個あれば完結するという話ではありません。ステートメントムービーが埋められるのは、共感という右脳的で情緒的な部分。多くの企業がなかなか、従業員にも採用候補者にも株主にも得られていない部分だと思っていて、ここにステートメントムービーというピースを一つ埋め合わせることで、かなり埋め合わせができるのではないかと考えています」(小川)
一方、最も深い納得・共鳴のフェーズでは、サイトでより深く調べる、中期経営計画を読んで未来ビジョンの具体を腹落ちさせるなど、人によってさまざまなプロセスがあります。映像だけでなくウェブサイトや各種施策との組み合わせでジャーニーを描き、足りないものを優先的に埋めていく設計が必要になります。
経営トップ・現場社員の「想い」をどう映像化するか
ステートメントムービーはミッション・ビジョン・バリューやパーパスといったコアメッセージを扱うため、言葉だけが浮いてしまうリスクを常に抱えています。
だからこそ、そのビジョンを実現できるとイメージが持てる具体の取り組みやコミットメント、現場の凄みが「手触り感」のある形で伝わるかどうかが問われます。自分たちが何をしたいかを毅然と伝えると同時に、相手の目線で見たときに、ビジョンを掲げる自社の覚悟や決意に心が動くかどうか。そこを考察し尽くしたうえでメッセージと映像表現を設計するプロセスが欠かせません。
企画に入る前段階で、決められた尺のなかにどういうストーリー構成を組むか。伝えたいことと、見る人の心が動くかどうかのバランスを見ながら構成を設計する作業が、制作のプロセスに組み込まれています。
第二部|田中教授による基調講演:採用にまつわる「伝わらない問題」の構造
ギャップは、勝手には埋まらない
続いて登壇した田中研之輔教授は、小川のパートをこう受け止めました。
「いい人を採りたい、我々のことを知ってほしい。でも、それがうまく届いていない。今のお話は、人的資本経営のなかで非常に重要な『ギャップを埋めていく作業』だと思うんです」(田中教授)

田中教授は、法政大学キャリアデザイン学部で教鞭をとって18年目を迎える、キャリア開発・人的資本経営の専門家。「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」では顧問・ファシリテーターとして、大手企業約50社とともに6年にわたる実践研究に取り組んできました。
このコンソーシアムに参画した企業に共通していたのが、定着率の高さでした。「では何をやっていたのか」をインタビューで掘り下げてきた知見が、この日の講演の土台になっています。

一緒に物語をつくる。採用は「選び、選ばれる」関係に──昭和・平成型から令和型へ
田中教授がまず提示したのは、時代の変化という前提です。AIによるトランスフォーメーション(AX)と、キャリアに向き合うこと(CX)。この2つを用意しておくことが、伝わらない部分を伝えていくための条件になるといいます。
「今までは企業側が候補者を選ぶ、という昭和型・平成型の採用でした。でもこれからは、企業と候補者が相互の関係性のなかで、一緒に物語をつくっていく。共感や経験を共有しながら育っていって、重要なのは3つ目、未来を描いていくことです」(田中教授)
いわきFCの映像の感想として、田中教授は「すごく心が踊る」「何度も見てしまうだろうなと思った」と語りました。ミッション・ビジョン・バリューの伝達に加えて、未来を描く物語まで届けること。それが持続的な関係性を生むという指摘です。
候補者の目線に立っているか? 主語を変えよう
では、どこにギャップが生まれているのか。
「従来型の企業のPR動画を見てもらうと明確に出ているんですけれど、右肩上がりです、こんなチャレンジができます、制度は整っていますと、自分たち側のことを伝えていたと思うんです。それがフィットしている時代もあったけれど、もう少し、仲間になってくれる人の目線や言葉、心情に寄り添えるといいのではないか」(田中教授)
何年目でどこまで経験できるのか。自分らしく働けるのか。誰と話ができるのか。候補者が知りたいのは、そうした自分を主語にした問いです。
「我々の会社はこんなにいいんです、ではなくて、誰に何を届けていくのかということを、すごく丁寧に掘り下げられるといい。ブランディングとはそういうことだと思うんです」(田中教授)
「伝わらない」を生んでいる3つのギャップ
田中教授は、企業と候補者のあいだに生じるギャップを3つに整理しました。「主語のギャップ」「抽象と具体のギャップ」そして「完成形と現実のギャップ」です。
ビジョンを掲げると、言葉だけが浮いてしまいやすい。だからこそ、そのビジョンを実現できるとイメージできる具体の取り組みやコミットメント、現場の「手触り感」が必要になります。「なぜこうなるのか」「実際に何が起きているのか」「本当にそうなのか」を丁寧に埋めていく作業において、活字よりも映像のほうが届けられる要素やニュアンスは多い、と田中教授は語りました。

内製化ではなく、プロジェクトにする
人的資本経営にまつわる相談を受けるなかで、田中教授がしばしば直面するのが「自分たちのチームで内製化してコンテンツ制作しよう」という発想ですが、なかなか差別化できるコンテンツを生み出すのは難しいといいます。
「プロの技を借りるのはすごくいいと思います。言い換えるなら、プロジェクトにしていく。ステートメントムービー制作をプロジェクトにしながら、外部のプロフェッショナルと一緒にチームを作ってやっていく。そうやって、選び・選んでもらえる企業をつくっていく。まさに人的資本経営における投資の一つのポイントだと思います」(田中教授)
田中教授は、経営(マネジメント)、組織全体(オーガニゼーション)、そして個人のストーリーという3つのレイヤーで伝えていくことの重要性を挙げました。3者の誰がどのタイミングで見ても、その企業の取り組みのメッセージ性が映像に落とし込まれていること。そして、チームを組んでいるみんなが心躍り、行動が想起されること。
「見て終わりでは意味がない。採用ということに関して言えば、一緒の仲間になりたいと思ってもらえることが実現できるといいですね」(田中教授)
本数を増やすのではなく、役割を設計する
コンテンツが溢れる時代に、田中教授が課題感として挙げたのが「増やすのではなく、選ぶ」という視点でした。
「ステートメントムービーはこれだ、ここにかけていこう、と役割を持たせる。私はこれを戦略と呼ぶんです。経営伴走をしていても、ありとあらゆることをやるのではなく、この3か年でここにフォーカスしよう、投資しようというジャッジをしていただけるといい」(田中教授)
採用は総合格闘技と言われます。新卒でも中途でも、候補者がリーチするチャネルにさまざまな手を用意することは重要です。しかしそれは、役割を持たせずに動画の本数を増やすことではありません。戦略的な役割を設計し、全体のなかで意思決定を支えていく。接点が増えることで候補者がファンになり、自分の経験や力をそこに注ぎたいと思えるようになる。そうした設計が求められます。
採用ブランディングは「見せ方」の話ではない
「これからの採用ブランディングは、見せ方やテクニックではないと思っていて。そこは小川さんとすごく共鳴したんですけれど、これは本当に人的資本経営の本丸なんです」(田中教授)
単に動画を制作してアップロードするのではなく、より良い採用をステートメントムービーや戦略設計のなかで作り上げていくプロセスにコミットすること。それが採用ブランディングの核心だという指摘です。
では「伝わる」とはどういうことか。田中教授が挙げたのは、実態・具体・一貫性・感情という4つの要素です。「社員は本当にその経験をしているのか」という問いを立てること。そしてそれは、社内の人だけでは設計しづらい領域でもあります。
「私が入ることによって、あるいは小川さんにコミットしてもらうことによって、相互作用が生まれる。コラボレーションとはそういうことだと思います」(田中教授)

何から始めればいいのか
アクションベースの第一歩として田中教授が挙げたのは、主語を変えること、そして社員の経験を掘り、伝えることでした。
日本リーテックや荏原製作所の映像を引き合いに、「ああいうキャッチコピーが出てくるのは、社員の方々に寄り添ってインタビューして、映像を回して、設計して、物語を展開してくるから。だから映像のなかに刻み込まれてくるんです」と語り、社内のリアルや実践をぜひ作品にしてほしいと呼びかけました。
さらに、採用ならではの利点も指摘します。
「採用は人的資本経営のなかでは単年度なんですね。26採用、27採用、28採用と、見る人はその年度で毎回見ていく。だとすると、今までできていなくても、27年から、28年からより良くすることができる。エンゲージメント向上の施策だと、15年働いている方をより良くしていくのは結構大変ですが、採用は新しい人がジョインしてくるので、経営陣から見ると変化をつかみやすいんです」(田中教授)
第三部|トークセッション:「伝わる」採用ブランディングを語りあう
パーパスは「掲げる」から「すり合わせる」へ
モデレーターの林氏が後半に取り上げたのは、田中教授が最後のスライドで示した「主語を変える」という論点でした。

「少し前までパーパス経営が流行して、皆さんミッション・ビジョン・バリューを作り直して訴求していました。でもそうではなく、企業のパーパスと、社員や採用候補者一人ひとりの人生のパーパスをいかにすり合わせるかが重要になっている、ということでしょうか」(林氏)
「そうです。伝わるとは何かというと、やはりギャップを埋めることだと思うんです。ギャップは勝手には埋まらない。だから、どのように、誰に伝えていくのか。そのプロなんだな、と思いますよね」(田中教授)
田中教授は尺の話にも触れ、「1分だとか4分だとか、見てくださる方の目線で作品が作り上げられている」点に、主語の転換を見て取ったと語りました。
採用に強いSNSはどれか
視聴者からは「優先的に力を入れるべきSNSを教えてほしい」という質問が寄せられました。
「5年、7年前は学生も全員Facebookアカウントを持っていて、欠席連絡もFacebookから飛んできました。でも今は誰も持っていない。私のところに来るのはInstagramのストーリーとリールです。新卒・若手に関して言えば、3か年か5か年でSNSの主要なところが変わってくるので、そこは押さえておく必要があります」(田中教授)
そのうえで田中教授が強調したのは、チャネル以上に「思いを込めたコンテンツ」が鍵になるという点でした。パンフレットなど紙媒体しか用意していない企業と、ステートメントムービーを発信している企業とでは、候補者の向かう先は変わってくる、と。
小川も、動画と映像の使い分けを整理します。
「先輩社員の一日やインタビューは動画で十分に機能すると思います。ただ、企業のミッションやビジョン、不確実な時代でどう自分たちがあろうとしているかというコアメッセージを載せるのは、動画よりも作り込んだ映像のほうがフィットする。でも動画も絶対に必要で、動画で見て興味を持つこともあるでしょうし、逆もある。そういう使い分けかなと思っています」(小川)

思わぬ反響が生まれるとき
いわきFCの事例では、当初の目的とは異なる場所で反響が生まれました。試合当日のスタジアムビジョンで上映したところ、関係者からの評判が高く、「ああいう映像を作りたい」というチームが現れたといいます。
「直接のターゲットは誰か、間接的にはどういう人たちにも見てほしいか、優先順位づけをしてやっています。メインとサブのターゲット分けをしつつ、そこは見渡してやれると理想だなと思っています。ただ、コントロールしきれないところもあるので、まずは外せない本質がどこかを押さえて作ることが大事です」(小川)
選考に至らなかった候補者との関係も、採用のうち
田中教授が引き合いに出したのは、ある食品メーカーの取り組みでした。選考に進まなかった応募者に対しても、自社製品を届けているという事例です。
「採用は、選び・選ばれる短期間での決着というイメージになりがちですが、そうではなく、それぞれの出会いをお互いに育て合っていきましょうという世界観を作る必要がある。『知ってくれてありがとう』『我々はこういう方針で取り組んでいるんだよ』ということを伝えていく。ステートメントムービーもまさにそうだと思います」(田中教授)
生成AIに相談する時代の、コンテンツ設計
林氏が投げかけたのは、候補者が生成AIに企業選びを相談する時代における設計の問いでした。映像だけではAIが読み取れない場合、企業は何を用意すべきか。
「おそらく今年の一番の変化は、みんながAIに相談していることです。相談しないでね、というのは解決策にならない。そのうえで重要なのは、回答しているAIが何を読んでいるか、です」(田中教授)
田中教授が示した処方箋は、映像コンテンツとテキストコンテンツを併走させることでした。ステートメントムービーを制作したら、その舞台裏や込めた思いをテキストで書き、記事やプレスリリースとして発信して映像と結びつけておく。AIはそれを読み込みます。
「私はムービーありきのみとは思っていません。素敵なムービーを、今まで皆さんがやってきた採用スキームのなかに埋め込んでいけばいい。パンフレットはパンフレットでいいんです。そこにQRがあって読んでもらうとか、ハイブリッド型で。本筋のところはステートメントムービーをドンと置いて、その前後のジャーニー、プロセスをしっかり作り込んでいくのが有効だと思います」(田中教授)
小川もこれに同意し、映像には固有の価値がある一方で盛り込める情報量には限界があるため、ウェブサイトや他の施策とセットでの相談が実際に多いと語りました。映像で共感し、具体を知りたくなればサイトを調べに行く。さらに人の価値観に触れたければインタビュー記事や動画へ。その連なりまで設計できるのが理想です。
IR・統合報告書のなかにも、映像の枠ができていく
田中教授は、人的資本経営の観点からもう一つの見立てを示しました。
「これからIRや中期経営計画、統合報告書のなかに、『ステートメントムービーはこれです』という枠ができてくると思うんです。それを見たステークホルダーは、そうやって伝えていこうという取り組みをやっているんだな、と受け取る。それはつまり企業の透明性であり、アカウンタビリティを持って届けているということです。ここから5年のあいだにかなり増えていく肌感覚があります」(田中教授)
もう一つの背景として挙げられたのが、採用の属人化です。採用担当者がセミナーを開き、あらゆる施策を回す労働集約的な構造は、担当者を疲弊させます。
「ステートメントムービーという箱を一つ置いておけば、他のことをやっているときにもそのムービーを見てくださるかもしれない。労働集約型の採用から抜け出せるじゃないですか。やらないという話ではなく、足りない部分を補う増幅装置になると思うんです」(田中教授)
誰が意思決定するのか
「採用ブランディング変革であると同時に、企業自体のアイデンティティやビジョンを公に説明する話でもあります。では、誰がどう意思決定するのでしょうか」(林氏)
田中教授の答えは明快でした。
「CHROか、本部長。採用を管轄するエリアのトップの方です。1000人規模までの企業であれば、CEOがちゃんと意思決定しているチームもあります。ただ大きくなってくると権限移譲されているので、おそらくCHROか本部長ですね」(田中教授)
なぜ「ステートメントムービー」だったのか
視聴者からは、ブランドムービーや企業VPとは異なる新しいサービスカテゴリを立ち上げた経緯についての質問も寄せられました。
小川が挙げた理由は2つです。一つは、中尺コンテンツの可能性。映画は2時間、ドラマは1時間、ドキュメンタリーは30分から1時間。一方で日常的に接触しているのは、スマートフォンの縦型SNSやCMのような15秒・30秒の尺です。
「その尺感だと、好きか嫌いか、自分に合いそうかという印象は持てますが、具体はわからない。では具体を調べに行くと、そこにエモーショナルで心躍るコンテンツが、動的であれ静的であれ少ないな、とずっと思っていました」(小川)
もう一つは、TYOが持つ映像クリエイティブの力を別の領域で生かすという発想でした。
「身近なステークホルダー──採用候補者であれ従業員であれ投資家であれ──に、リッチな映像クリエイティブを使っているケースは少ない。ブランドムービーをそのまま使ってしまっているケースもありますが、投資家はもう知っているわけです。その企業に対するリテラシーや興味度合いに合わせたクリエイティブが、うまく設計されていないなと感じていました」(小川)
クロージング|いまいる社員が、何度も見返せる映像へ
最後に、田中教授から視聴者へメッセージが贈られました。
「ステートメントムービーは新しい取り組みで、これからの取り組みだと思うので、本当に皆さんで育てていってほしい。私から見ると、いまいる社員の方たちが何度も見直して、自分たちの仕事に対する誇らしさを再確認できる応援ムービーなんだろうなと思いました」(田中教授)
「ブランドジャーナリズムとの掛け算もすごく面白かったですし、私自身も採用について改めて考えさせられました。より良い採用を皆さんとともに、次世代に向けて、次の社会に向けて作っていきたいと思います」(田中教授)
採用を勝ち負けや短期的なセグメントで捉えるのではなく、次世代への投資として、キャリアのジャーニーとして捉え直す。そのとき映像は、単なる制作物ではなく、企業の意志を社内外に接続し続ける資産になります。
採用を「どう見せるか」の問題として扱うかぎり、コンテンツは増え続け、担当者は疲弊していきます。問いを「誰に、何を、どう届けるか」へと置き換えたとき、映像は一本の制作物から経営の資産へと姿を変える。その道筋が具体的に示された60分となりました。

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▼過去実施セミナーのレポート
・【セミナーレポート】ステートメントムービーとは?経営課題を解決する新しい映像コミュニケーションの形 https://tyo.co.jp/cases/20260127-1/
・【セミナーレポート】投資家の心をつかむコミュニケーションの「本質」とは──IR映像の新潮流 https://statementmovie.tyo.co.jp/news/260529-1/