ステートメントムービー by TYO

2025.10.07

【インタビュー記事】震災から始まった、いわきFCとの10年の軌跡。TYOプロデューサー面川正雄が語る、心を動かす映像制作への情熱

東日本大震災をきっかけに誕生した、サッカーJリーグのいわきFC(福島県)。TYO Chief Producer面川正雄は、福島県出身という縁から約10年にわたって「伴走」し、J3優勝、J2昇格といった歴史的瞬間やストーリーをエモーショナルな映像で伝えてきた。企業や組織のビジョンや想いを映像で表現する「ステートメントムービー」で、ファンや関係者をはじめとした多くの人の心を動かし続ける。「何かお手伝いさせていただけませんか」の一言から始まった長期プロジェクトに込められた、静かな情熱を聞いた。

「何かお手伝いさせていただけませんか」。震災後に始まった、いわきFCとの軌跡

──いわきFCとのプロジェクトについて教えてください。

私は福島県出身で、地元の縁で、映画「フラガール」で有名なスパリゾートハワイアンズ(福島県いわき市)の映像を以前から手がけていました。2010年に撮影しましたが、翌2011年3月の東日本大震災でハワイアンズは被災してしまい、一時閉館せざるを得ませんでした。

震災では私の実家も被災しました。地元福島の状況に心を痛めながらも、何かお手伝いができればという思いで、その後もフラガールの方たちに1年ほどかけて密着撮影。当時はまだまだ普及していなかったYouTubeでフラガールの映像を公開していきました。

そんな中、親しくなったフラガールの方たちから「いわきFCというサッカーチームができたんです」とご紹介いただきました。東日本大震災と原発事故からの復興支援のために誕生したいわきFC。発足当時は社会人東北リーグで、地元でたまにポスターを見かける程度でしたが、発信についてはあまり得意ではないと話しておられました。

思わず、「何かお手伝いさせていただけませんか」と私からお願いして、ご縁が始まりました。

そこから10年、運営会社であるいわきスポーツクラブの代表取締役である大倉智さん、広報の川崎渉さんと、継続的に連絡を取って、密に打ち合わせを続けています

いわきFC自体、震災時に大倉さん自身がボランティアとして様々な物資を配布したりして地域を支援していた中で、大倉さんを中心としたコミュニティができ、立ち上がったチームです。大倉さん、川崎さんも本当にサッカーがお好きですし、いわき市や、チームや関係者のみんなを愛していらっしゃる方なんですよね。

社長自らが私たちと直接やり取りをしてくださるのは珍しいケースだと思いますが、その分、思いのこもった映像を作ることができていると思います。

──特に印象深い作品はありますか。

演出の磯見大氏と一緒に、2021年に制作した「この街」は、一つの集大成のような作品になりました。
震災から10年をテーマにして週に1、2回打ち合わせを重ね、「この街のために」という言葉が出てきたことをきっかけに、トップレベルの映像を作ろうとクリエイティブチームで制作に取り組みました。本当にいい作品ができたと思います。
磯見大氏もいわきFCにどっぷりハマってくれてます。
この街や中間報告を作る際も、磯見氏と何度もいわき市に足を運び、街と人に触れてスタッフ全員で作り上げました。


「この街」|いわきFC

本当は、生まれずに済んだらよかったのかも知れない。
あの日の出来事を思い出すと、そんなふうにすら、思える。

10年前。
この街はたくさんの大切なものを失いました。
今はもう、見ることの出来ない風景。
今はもう、会うことの出来ない人たち。
例えようもない、深い悲しみ。
癒えることのない、痛み。
このチームは、そんな悲しみに根ざして生まれました。

本当は、生まれずに済んだらよかったのかもしれない。
それでも。
日々は続いていきます。

あのとき生まれた赤ん坊は小学生になり、
あの日、小学生だった子どもは成人になりました。

あれから10年。
いわきFCは、この街のために、なにが出来ただろう。
いわきFCは、この街に、なにが残せただろう。

ごめんなさい。
Jリーグにはまだ、届きませんでした。
今はまだ、道なかばです。

でも、本当の目的地は、もっと遠くにあります。
Jリーグよりも、もっともっとずっと先に。

どうか、傲慢に聞こえたら許してください。
いわきFCは誇りになりたいのです。 

この街で生まれ、この街で育ち、この街で暮らす人たちの。
この街を離れ、この街を想い、いつかこの街に帰る人たちの。

この街に生まれてくれてよかった。
そんな存在になるために。
この街に生まれてよかった。
みんながそんな風に思えるように。願わくばあなたと一緒に。

Producer 面川 正雄
Director,Copywriter 磯見大
Narrator 武田玲奈


2025年には設立10周年の節目として、「中間報告」と題した映像を制作しました。前半はファクトベースでこれまでの経緯を説明し、そこからチームとしての思いや地域愛、ビジョン、目指す世界を描いています。

「中間報告」|いわきスポーツクラブ紹介ムービー2025ver.

2025年。
おかげさまで、いわきFCは設立10年の節目を迎えました。
10年前、福島県社会人リーグ2部から出発したいわきFCは今、J2にいます。
順調に昇格をし続け、観客数、売上、成績、あらゆる面で成長を遂げました。

でも、誤解を恐れずに、思い切って言います。
それがどうだって言うんだろう。

売上よりも、成績よりも、いわきFCには、もっとずっと誇りたいことが、他にあります。
勝つことでブランドをつくれない。
地域に向き合ってこそ、それはつくられる。

いわきFCは”浜を照らす光”になりたい。
次の10年も、いわきFCは走り続けます。

我々はまだ、始まったばかり。
WALK TO THE DREAM

Producer 面川 正雄
Director,Copywriter 磯見大
Narrator 武田玲奈


いわきFCについては毎年、映像制作を中心に何らかのプロジェクトに関わっています。最終的にはいわきFC自身が地元で映像を制作できるようになっていった方がいいと考えていますが、それまで一緒に伴走していければと思います。

企業や組織の想いを映像で表現する「ステートメントムービー」の醍醐味

──いわきFCの一連の映像は、商品・サービスの広告映像とは異なるものですね。

TYOとして、いわきFCの映像のような「ステートメントムービー」を改めて定義し、その推進、制作に力を入れています。

広告映像とは一線を画し、企業や組織、地域が抱く想いやビジョン、価値観、社会への約束を物語として丁寧に掘り下げ、映像と言葉で可視化したものです。従業員や関係者、投資家、顧客など様々なステークホルダーに「共感」や「共鳴」を育むものだと位置づけています。

これまでもブランドムービーと言える映像は制作してきましたが、改めて「ステートメントムービー」として定義したことで、より企業や組織の想いを映像で表現することの意味を考えるようになりました。

クリエイティブ表現や映像クオリティを追求するタイプの広告映像やミュージックビデオよりも、まずお客様のことを徹底的に理解しなければいけません。そして温度感を合わせて、クライアントが本当に伝えたいこと、伝えたいけどまだ表現できていないことを映像で形にする。プロデューサーとしてはそこに面白さがあると思います。

CMなどの広告映像の多くは商品を認知してもらうといった明確な目的があるので、一定のフォーマットが見えてきます。ステートメントムービーはまだそれほどフォーマットが固まっておらず、組織や事業の状況次第で、伝えたいことや表現にバリエーションがあると思うので、相当力量が問われることになります。

そのためには制作チームが全力を尽くしてお客様のことを理解しなければいけません。私としては、そんな企画や制作の過程で、お客様から「楽しい」と言っていただけるのが嬉しいことですね。

映像業界20年、地域プロモーションをはじめとした数々の受賞実績

──これまでのキャリアを教えてください。

映画が好きで福島から東京に出てきました。映画制作の専門学校を卒業した後、映像プロダクションのMONSTER FILMS(現:TYO MONSTER)に2004年に入り、本格的に映像業界のキャリアをスタートさせました。そこから現在に至るまでMONSTERに所属しています。現在のTYOのブランドの1つ、広告映像を中心としたプロダクションチームです。

最初はプロダクションマネージャーとして制作進行を務め、30歳を過ぎた頃にプロデューサーになりました。一つひとつの仕事を通じてお客様やクリエイティブのメンバー、スタッフとの関係が深まっていき、その縁や、映像を見てくださった方々から次の仕事の相談が来るようになり、少しずつ道が開けていきました。

──地域プロモーションを中心に、国内外で数々の賞を受賞されていますね。

「予算はないけど一緒にやらないか」と声をかけられるようになり、次第に地域のプロジェクトにかかわるようになっていきました。認知向上や観光誘致を目的とした2015年の佐賀市とのプロジェクトでは、いろいろと話を聞いている中で、佐賀に「ワラスボ」という珍しい生き物がいることを知りました。ワラスボを題材に映画のような作品を作ったところ話題になり、国内外アワードでの受賞につながりました。


佐賀市プロモーションムービー 「W・R・S・B」

佐賀市に旅行にきたカップル、青木和夫と桐山祐子は有明海に面した干潟よか公園で、この世の物とは思えない不思議な骨を見つける。

その生物とは・・・

謎の生命体 W・R・S・Bと人類の危険すぎる遭遇。

かつてない壮大なスケールで描く今世紀最大の問題作。

Spikes Asia 【Internet Film】BRONZE
ADFEST【Branded Contents】Finalist【LotusRoots】Finalist
PMAA2015:BlackDragon
第36回佐賀広告賞【WEB Film 】Gold【 Poster 】Gold  他

TYO’s Staff
Producer 面川 正雄
Production Manager 奥田美優


静岡県伊東市とは、ミュージックビデオのロケ地として使用したことがきっかけで市役所の方と知り合い、観光PR映像を制作することになりました。最初はコンペでしたが、「まくら投げ発祥の地」であるということを調べて、それをテーマにしたプロモーションを提案したところ、アイデアを評価していただけました。そこから毎年試行錯誤しながら、まくら投げをテーマに継続して制作しています。

伊東市「まくら投げプロモーション」

アドフェスト(アジア太平洋広告祭)2021 LOTUS ROOTS、BRANDED ENTERTAINMENT LOTUS 受賞

TYO’s Staff
Producer 面川 正雄
Production Manager 奥田美優

地域創生、スポーツ振興──さらなる挑戦へ

──今後取り組んでいきたいことについて教えてください。
映像プロデューサーとして、TYOが注力している地域創生やスポーツ振興の領域にもっと貢献していきたいという思いがあります。

TYOは昨年(2024年)9月に、まだ世界にあまり知られていない日本各地の風景や文化の魅力を、ハイクオリティかつノンバーバルな映像表現で世界に発信するコンテンツシリーズ「Another Side of Japan(アナザー・サイド・オブ・ジャパン)」をスタートしました。

地域の中にある物語を高品質の映像で可視化し、旅の新たな選択肢として、国内外の潜在的な観光客に向けてさまざまなプラットフォームで提案しています。こういった観光振興の領域においても、もっと挑戦してみたいですね。

スポーツに関しては、私が好きなサッカーで言えば、Jリーグはインドネシアやタイなどでとても人気があります。海外向けのハイクオリティなコンテンツを制作して届けることで、より海外人気を加速させることができると思いますし、実際そういったチャレンジも検討しています。

スポーツは時間やお金、熱量、人生を捧げるに値するものだと思いますし、映像との相性も良いので、もっと注力していきたいですね。